単純にお考えください。
　まず噛んでいることが絶対条件です。理想のかみ合わせというのは、

　「平均的な形、大きさの歯が上下とも綺麗に排列され、それがきちんとかみ合っている状態」

です。簡単ですが、これ以上のかみ合わせは存在しないと思っております。

　そもそも現在のあなたのかみ合わせはどうやってできたのでしょうか？今のかみ合わせは何を物語っているのでしょう？
　それは、あなたのお口の周りの筋肉や噛む筋肉の使い方が、「現在の歯並び」という「形」で表現されているんです。その結果、きちんと歯が並ばないということもありますが、お口を使って、食べたり、話したりするときに問題がなければ、
「歯並びは悪いけど、かみ合わせが悪いわけではない」という場合もあるんです。そうじゃないと、ほとんどの方は異常になってしまいますよね。大切なことは、歯がきちんとお口の中に収まっており、お口の周りの筋肉の動きに合わせた、理にかなった状態になっているかどうかということです。

　ご存知の通り、人間の歯は一度手をつけてしまうと、二度ともとには戻りません。しかし、お口の動きを明らかに阻害している歯の一部分がある場合は、きちんと承諾を得てから、ごくわずかに接触している部分だけを削らせていただく場合があります。また、逆に盛り足させていただく場合もあります。

かみ合わせ治療は万人に有効ではないと聞きましたが

　かみ合わせの学問をナソロジーと言いますが、これは素晴らしい先達によって考案されました。ただ、治療の際に、顎の動きを再現させる器械を用いるのですが、これは完全に再現されるものではありません。また、基準になる顎の位置の設定もすべて画一的であって、個人的なものではありませんでした。その上、かみ合わせのつけ方も糸切り歯を主体に考えることが原則でしたので、患者さん個人個人の骨格的な要素、お口の周りの筋肉の動きや強さは考慮されていませんでした。

　しかし、今では骨格の違いによって、食事中のお口の動きの違いや、筋肉の使い方が明確になってきているので、個々の患者さんごとにかみ合わせの治療が行いやすくなってきています。

　人間は精密機器ではありません。「あそび」が必ず存在します。自動車のアクセルやブレーキ、ハンドルもあそびがありますよね。
それと同じで生体を守るためにあそびは必要なものです。ただ、個人個人で、あそびのレンジが異なることも事実です。よりあそびの少ない方には、精密なかみ合わせをつけてあげることが重要になります。

肩こりや頭痛があるのですが、かみ合わせと関係あるのでしょうか？また、治療することはできるのでしょうか？

　これは、歯科医師にとって大きな課題だと思います。実際のところ、確定診断にいたる道すじはまだ確立されていません。ただ、お口を動かすときに、本来力のかかる必要のない部分に無理な力がかかるとどうなるでしょうか？お口や顎の周囲の筋肉が、緊張してしまいます。それによって、神経が刺激されたり筋肉の疲労を起こしたりすることがあります。

　ただ、他の医療機関を受診されて原因不明だと言われましたか？かみ合わせで全てが治るとなどいうことは、人体の構造や生理を無視した傲慢な態度に他なりません。そして、科学的にも全く証明されていないことなんです。

　進化の過程を見つめてみると、本来四足歩行であった動物が二足歩行のヒトに進化しています。その理由として、人間は他の動物よりも大きな「脳」を獲得したからだと言われています。その結果、首の周囲に無理な力の負担がかかるのは当然と言えば当然だと考えられます。

　わたしたちは歯科医師ですので、お口を対象にして肩こりや頭痛の症状の軽減を図り、改善させていきます。その方法はお口の動きを周囲の筋肉のバランスを整えてあげることです。そのために、かみ合わせを調節したり、噛む位置を変えたりなどするんです。効果は100％の場合もあれば、思ったほど効果がない場合もあります。しかし、現在抱えていらっしゃる問題は軽減できるでしょう。